こんにちは、「大人の自由研究」所長のささきです。

突然ですが、あなたは「高級食材ばかり使ったのに、なぜか味がぼやけている料理」を食べたことはありますか?

今回研究するのは、映画『盤上の向日葵』。
柚月裕子さんのベストセラー小説を原作に、坂口健太郎さん、渡辺謙さんら超豪華キャストが集結した話題作です。

結論から言います。
役者さんの演技は、震えるほど素晴らしかったです。
ですが、映画としての構成は……正直、悔しさが残る作品でした。

今回は、原作を読んでいない「映画ど素人」の私が感じた、「なぜこの映画は名作になり損ねたのか?」という違和感について、忖度なしで語ります。
※愛ゆえの辛口レビューです。
ネタバレを含みますのでご注意ください。

1. あらすじ:異才の棋士と、伝説の真剣師

山中で発見された白骨死体。その傍らには、名匠が作った貴重な将棋の駒が残されていた。
捜査線上に浮かんだのは、異例のスピードで将棋界のトップに上り詰めた天才棋士・上条桂介(坂口健太郎)。

そして、かつて裏社会で生きた伝説の真剣師・東明重慶(渡辺謙)。

過酷な運命を生きた二人の男と、死体の関係とは──?

……と、あらすじだけ聞けば「重厚なヒューマンミステリー」の傑作になる予感しかしませんよね。
しかもキャストが凄すぎるんです。

2. ここが素晴らしい!「演技のドリームチーム」

まずは、手放しで絶賛させてください。
この映画、「日本の役者の底力」を見せつけられる作品です。

  • 渡辺謙さん、佐々木蔵之介さん、柄本明さん…
    もはや「演技のオリンピック日本代表」です。
    画面に映るだけで重厚感が違う。

  • 主演・上条桂介(坂口健太郎)
    孤独と狂気を秘めた天才棋士。
    彼の「目」の演技には引き込まれました。

個人的MVP:土屋太鳳さん

そして何より驚いたのが、桂介の元婚約者を演じた土屋太鳳さんです。
正直、最初は気づきませんでした。
「あれ、この女優さん誰だろう?」と思ったほど。

いつものキラキラしたオーラを完全に消し去り、作品の中に「生活者」として溶け込んでいました。
映画を見終わった後、じわじわと「あの演技、凄かったな…」と反芻してしまう。
こんなお芝居に憧れていた時が私にもありました。

派手さはないのに、印象に残るってすごくないですか?
最高のお芝居をありがとうございます。

3. 【辛口注意】原作未読でも気づいた「3つの違和感」

ここからはネタバレを含みます

映画の核心や演出について、愛のあるダメ出しをしています。
未見の方はご注意ください。

役者が最高だったからこそ、脚本・演出のアラが目立ってしまったのが本当に悔しい。 私が感じた「ノイズ」は、大きく分けて3つです。

① 意味深すぎる「右耳を触るクセ」

恩師(小日向文世)が将棋を指す時、必ず「右耳を触る」んです。
カメラもわざわざドアップで抜くので、観客は思いますよね。「あ、これ絶対伏線だ」と。

  • 師弟の絆の証?

  • 犯人を特定するヒント?

……結論、何でもありませんでした。
主人公が一瞬マネをするシーンはありますが、物語の核心には一切絡まない。
原作では重要な意味があるのかもしれませんが、映画で説明しきれないなら、潔くカットすべきだったのでは?
「意味ありげなカット」が回収されないのは、ミステリーとして反則です。

② 演出過剰な「マンガ的リアクション」

将棋の対局シーン、特に新人王戦での演出が気になりました。 負けた相手が、まるでアニメのように「ガクッ!」とわかりやすく落ち込むんです。

ここはプロを目指す奨励会。
人生をかけたヒリヒリする場所です。
そんな場所で、あんなコメディみたいなリアクションをするでしょうか?
重厚な世界観が一気に「B級映画」っぽくなってしまい、冷めてしまいました。

③ 刑事(佐々木蔵之介)のキャラ設定がブレブレ

佐々木蔵之介さん演じる刑事。
登場シーンでは「駅弁を食べたあとで、食い物の話をする」
そして部下にツッコミを入れさせる。

そんな、少し軽妙なキャラとして描かれています。
「お、今回は重いテーマだから、この刑事が息抜き担当なのかな?」と思いきや……

その後はずっとシリアス。ただの「できる刑事」でした。
最初の「キャラ付け」は何だったの?
原作にある要素を無理やり詰め込もうとして、消化不良を起こしている印象を受けました。

4. もし私が監督なら、こう撮る(妄想)

素人の戯言だと思って聞き流してください。
でも、この映画が名作になるためのピースは、実は「視点の変更」にあった気がするんです。

主人公は「若手刑事(佐野)」であるべきだった

現在の映画は、天才棋士・桂介の過去を追う構成になっています。
でも、感情移入すべきは、その壮絶な人生を目撃する若手刑事(高杉真宙)の方ではないでしょうか?

  1. ベテラン刑事に振り回されながら捜査を進める。

  2. 桂介のあまりに過酷な過去を知り、同情してしまう。

  3. 「正義とは何か? こんな悲しい男を逮捕すべきなのか?」と葛藤する。

この「観客と同じ目線」を持つ若手刑事を主軸にすれば、ラストシーンの余韻もまったく違ったものになったはずです。
桂介は「理解不能な天才(ミステリー)」として描き、刑事がその謎を解く中で成長する。 そういう構造の方が、この豪華キャストを活かせたんじゃないか……と、勝手に悔しがっています。

5. まとめ:日本映画、もっとやれるはずだ

文句ばかり言ってしまいましたが、それは「日本映画への期待」があるからです。

Netflixなどの配信が主流になり、「ながら見」コンテンツが増える現代。
そんな中で、映画館という「逃げ場のない2時間」で物語に没入できる体験は、本当に貴重です。

日本の役者は世界レベルです。
原作小説も面白い。
だからこそ、脚本と演出さえ噛み合えば、世界を震わせる傑作がもっと生まれるはずなんです。

『盤上の向日葵』は、「素材は最高級なのに、調理法で損をした」惜しい作品でした。
でも、役者さんたちの演技合戦を見るだけでも、チケット代の元は取れます。
ぜひ一度観て、あなたならどうリメイクするか、妄想してみてください。