こんにちは、「大人の自由研究」所長のささきです。

突然ですが、あなたは「爆発したって、別によくないですか?」と言われたら、どう返しますか?

今回研究するのは、映画『爆弾』。
「このミステリーがすごい!」で1位を獲得した呉勝浩さんの同名小説を映画化した話題作です。

正直に言います。
観る前は「よくある爆破パニック映画でしょ?」とタカをくくっていました。
しかし、観終わった後に残ったのは、爽快感でも恐怖でもなく、「価値観を揺さぶられたザラつき」でした。

元役者としての視点で、この映画の「演技の凄み」と、作品が投げかける「残酷な問い」について、マニアックに解説します。

1. あらすじ:99分間の「命の選別」クイズ

物語は、酔っ払った中年男が警察に連行されるところから始まります。
男の名はスズキタゴサク
取調室で彼は、ふざけた顔でこう予言します。

「霊感で事件を予知できます。都内のどこかに爆弾が仕掛けられています」

当然、警察は信じません。しかしその直後、本当に爆発が起きる──。

そこから始まるのは、IQの高い刑事・類家(山田裕貴)と、正体不明の怪物・スズキ(佐藤二朗)の心理戦。
そして、爆弾を探して走り回る現場の刑事たち。

スズキが出す「クイズ」に正解しなければ、次の爆発が起きる。
しかし、スズキは笑いながらこう言い放つのです。
「爆発したって、別によくないですか?」と。

2. 映画が投げかける「残酷な問い」

この映画の真骨頂は、爆破シーンの派手さではありません。
犯人であるスズキが、警察(=正義)、そして画面越しの私たち(=観客)に突きつけてくる「問い」にあります。

「自分に関係ない不幸」を、僕らはどう見ているか?

スズキの狂気的なセリフ、「爆発したって、別によくないですか?」。
これを聞いて、あなたはどう思いますか?
「ふざけるな」と怒るでしょうか。

でも、少し意地悪な見方をしてみましょう。
日々ニュースで流れる災害や事故。
もちろん「かわいそう」「大変だ」とは思います。
でも、自分の生活や仕事を投げ打ってまで助けに行く人は、どれくらいいるでしょうか?

結局のところ、当事者じゃなければ「関係ない」。
極論を言えば
「起きても、別によくないですか?(だって自分の半径5メートルは無事だし)」
と、心のどこかで思っていないでしょうか?

スズキという怪物は、そんな私たちが隠している「無関心」という名の残酷さを、笑いながら引きずり出してきます。
だからこそ、この映画を観ていると心がザラザラするのです。

3. 【元役者視点】ここが凄い!演技の解剖学

職業柄、どうしてもストーリーより「芝居」に目がいってしまうのですが、この作品のキャスト陣は「全員、怪演」でした。

怪物・スズキタゴサク(佐藤二朗)

普段はコメディリリーフの印象が強い佐藤二朗さん。
ですが、今回は完全に「あっち側の住人」でした。
サイコパスや殺人鬼といった「架空の存在」を演じるのは、実は一番難しいんです。
お手本が近くにいないから。
一歩間違えればコントになってしまうギリギリのラインを、彼は「得体の知れない不気味さ」で見事に成立させていました。

圧倒的な「引き算」の演技(染谷将太)

刑事・等々力役の染谷将太さん。
『ヒミズ』の頃から嫉妬するほど上手い役者さんですが、今回は「ただ、そこにいる」という凄みがありました。
派手な声を出すわけでも、大きな動きをするわけでもない。
なのに、画面の端に映っているだけで「何かが起きそう」な気配を漂わせる。
「存在感」という才能を、まざまざと見せつけられました。

4. 【ネタバレ・辛口注意】映画好きとして「あえて」言いたいこと

ここからは、映画を愛するがゆえの「大人の辛口レビュー」です。
※作品の結末には触れませんが、演出のネタバレを含みます。

ここから先はネタバレを含みます

まだ映画を観ていない方は、ここで読むのを止めるか、観終わってから戻ってきてください。

① 「リアルすぎる」のは、本当に正義か?

今の映像技術は凄まじいです。
この映画でも、爆発で手足が欠損する描写などが、あまりにリアルに描かれています。
止血の様子、溢れる血の量…。
技術としては完璧です。

でも、あまりにリアルすぎると、逆に「これ、どうやって撮ってるんだろう?」と、メイキングの方に意識がいってしまいませんか?
映画の魔法(没入感)が、技術の凄さによって解けてしまう瞬間があるのです。

「直接見せずに、想像させる恐怖」という演出があっても良かったのではないか。
大人の映画ファンとしては、そんな「余白」が欲しくなりました。

② 日本映画の「暗さ」について

最近の邦画は「正義を疑う」「倫理をひっくり返す」という、重厚で暗いテーマが王道になっています。
もちろん、考えさせられる素晴らしい作品です。

でも、ただでさえSNSが炎上し、暗いニュースが溢れる現代社会。 映画の中でまで、こんなに重い現実を突きつけられ続けると、ふと「スカッとする王道が見たい!」と叫びたくなりませんか?

社会風刺もいいけれど、たまには「映画のためにゼロから作られた、極上のエンターテイメント」を浴びたい。
そんな「無い物ねだり」をしてしまうほど、この映画は現代社会の闇を精巧に映し出していました。

5. まとめ:原作小説とセットで楽しむのが正解

映画『爆弾』は、ただのパニック映画ではなく、「自分の倫理観を試される踏み絵」のような作品でした。

もし、映画を観て
「スズキの背景をもっと知りたい」
「描写不足だった部分を補完したい」
と思った方は、ぜひ原作小説も手に取ってみてください。

映画を観終わった後、あなたはスズキの問いにどう答えますか?
ぜひ、ひとりでじっくり考える夜を過ごしてみてください。