【INSPIRE】『レンタル・ファミリー』レビュー|日本の空気を世界に届けた、静かな良作。

予告動画を観て、気になっていた作品がある。
『レンタル・ファミリー』
舞台は日本。主演は外国人。
この組み合わせに、最初ドキッとした。
気がついたら惹きつけられていた。
つまり、予告でがっつり心を鷲掴みされて、まんまと観てしまった。
想像していた世界観と、実際の世界観の違い。
そのギャップも含めて、魅力あるレビューをお届けしたい。
この作品は、日本の「空気」を切り取った映画
日本独特の文化を、外国人を通して世界に伝える作品。
日本人にとっては、自分たちの特徴を改めて知ることになる。
しかも、「日本人とは何か」とは問いかけない。
物語を観ることによって、何となくわかる。
それがとても日本っぽい表現だった。
物語はオムニバス形式で進んでいく。
それぞれの依頼が、日本独特の空気感を映し出している。
最初のエピソードがいい例だ。
同性愛を貫くために、家族を騙す。
両親には異性との結婚という儀式を見せて、その後は恋人と自分の幸せのために生きる。
歪んでいると思うかもしれない。
海外では同性愛を堂々と主張する文化もある。
でも、そうじゃない選択もある。
同性愛を認めてくれない両親を傷つけたくない。
でも、自分の幸せも諦めたくない。そのために、自分の周りの人間には頼れない。
だから借りる。自分の人生に交わらない人間を。
お金で解決できる。後腐れもない。
友達に頼んだらこうはならない。バレる可能性がある。
「あの時助けてやったろ」と脅される可能性だってある。
そんな絶妙なニュアンスを、この映画は観る側に静かに訴えてくる。
これがレンタルファミリーというビジネスの本質だ。
そして、その本質を体現するのが外国人の主人公というところが、この映画の面白さでもある。
面白いのは、外国人が絶妙な距離感で日本の文化を体現するところ
主人公フィリップは最初、この仕事を断る。
自分にはできないと。
やると決めた最初の仕事では、結婚式当日にトイレに引きこもり、やっぱりできないと言い出す。
彼が何を思っていたのかは描かれない。
ただ、できないとだけ。
結局は見つかって、無理やり新郎として演じることになる。
きっと彼は、見せかけの幸せへの嫌悪感か、騙すことへの罪悪感か、そのどちらかを感じていたんだと思う。
「依頼人の幸せが第一優先」という仕事の論理に、納得がいかない。
その葛藤がこの物語の面白さだ。
そして物語が進むにつれて、フィリップは寄り添い始める。
少女に。おじいちゃんに。
受験に合格できないのは父親がいないからだと、母親は思って依頼した。
受験合格がこの依頼のゴールだった。
でもフィリップは、全く違う方向からアプローチした。
狙っていたわけではない。ただ、この子と向き合っただけだ。
その結果、観ている側は気づく。
この子に本当に必要だったのは、この子の魅力に気づいてあげることだったと。
この映画が問いかけるのは、言葉で伝えない日本の文化と、しっかり伝える外国の文化、どちらが正しいかではない。
どうミックスさせるかだ。
郷に従え。それも正しい。
自分の考えを伝える。これも正しい。
ハッピーエンドで終わった後に残るのは、「じゃあ自分はどっちだ?」という問いだ。
自分に足りないものは何か。それを補う必要があるのか。
明日からの人間関係について、静かに考えさせられる。
実に興味深い作品だった。
HIKARI監督について
この作品で、この監督を初めて知った。
観終わった後に思ったのは、この人は日本人が気づかない日本人だけの感性に敏感だということだ。
海外の人が日本の文化を知る機会は、実はそれほど多くない。
アニメはもはや世界に誇る日本の文化だ。
鬼滅の刃もナルトも、世界中で人気がある。
ただ、リアルではない。架空の世界だから。
派手なアクションが人気なのはわかる。
作品を通して日本人の感覚もある程度は伝わると思う。
でも、リアルな日本の空気感は伝わらない。
この映画は違う。
エンタメとしての面白さを持ちながら、日本独特の文化をリアルに描いている。
頑固な親父がなぜそういう考え方になるのか。
世間体を保つために人を雇うという発想がなぜ生まれるのか。
そういう「なぜ」まで丁寧に描いている。
日本が世界に向けてこういう作品を発信し続けることは、とても意味があることだと思う。HIKARI監督には、ぜひ今後もこういう作品を作り続けてほしい。
惜しかった。素人の戯言だと思って聞いてほしい。
烏滸がましいのは承知で言わせてほしい。
この物語、結末がある程度予想できてしまった。
エンタメとしての要素もある。文学的な要素もある。全てが高水準だ。
だからこそ、物語の高低差のなさが少し気になってしまった。
お笑いで言うところの「裏切り」がもう一手間欲しかった。
展開がわかっていても面白いと思える何か。序盤から中盤にかけて、ユーモアや笑いが入るともっと良かったかもしれない。
ただ、これは難しい問題でもある。
西洋っぽい笑いを入れると作品の良さが消えてしまうかもしれない。
日本っぽい笑いを入れると漫才っぽくなるかもしれない。
せっかく外国人と日本人の俳優のミックスなのだから、そこから生まれる化学反応を序盤でもっと見たかった。
そうすることで最後のエピソードが多少落ち着いた着地でも、最初の笑いからのシリアスという高低差で十分面白く感じられたと思う。
そうでなければ、最後にどんでん返し的な展開があればエンタメとしてもっと跳ねた作品になった気がする。
でも、これは素人の戯言だ。
この作品はそもそもエンタメに振り切った映画ではないから、的外れな要求かもしれない。
それでも、何となく物足りなさを最後に感じてしまったのが正直なところだ。
HIKARI監督、次回作に期待しています。
それでも、良作であることは間違いない
私たちは日々を演じて過ごしている。きっと、誰かのために。
文化の違いで表現方法は違うかもしれない。
でも、それはどんな文化圏にいたところで同じだろう。
じゃあ、日本ではどうなのか。
レンタルファミリーはそれを少し過激に表現しているけれど、本質をついている。
それをうまく伝える良作であることは間違いない。
この映画を観てどう感じるか。
それはきっと、今をどう生きているかで変わってくる。
だからこそ、ひとりで観るよりも誰かと観た後に感想を言い合うのが楽しいかもしれない。
自分を俯瞰して見ることになるから。
ただ、そんなにストイックに観なくても楽しめる作品だ。
思いのままに観て、余韻に浸る。それだけでいい。
ひとり映画をもっと楽しむために
この映画のような作品は、没入して観るほど深く刺さる。
じっくり考えながら観たいからこそ、環境を整えたい。
私が使っているイヤホンをGEARで紹介しているので、気になる人はのぞいてみてほしい。






